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[U17女子W杯]日本女子サッカー育成の成功を示したリトルなでしこ

トピックス 大住良之(サッカージャーナリスト)
PK戦はいつも残酷だ。

 後半22分から左サイドバックとして出場し、守備を引き締めるだけでなく攻撃面でも質の高いプレーを見せていたDF金勝里央(浦和レッズレディースユース)のキックがバーを超え、「リトルなでしこ」のFIFAU−17女子ワールドカップ連覇が消えていった。

 ボール支配率60%、シュート数は相手の3.5倍にもあたる24本。だがアジア予選の決勝戦で0−1の敗戦を喫した北朝鮮のゴールを破ることは、ついにできなかった。

★★★

 9月30日から10月21日まで中東のヨルダンで開催されていたFIFAU−17女子ワールドカップ。日本は2大会連続3回目の決勝戦進出を果たしたが、準優勝に終わった2010年大会と同様、PK戦を4−5で失い、2014年大会に次ぐ連続優勝はならなかった。

 だが今大会の「リトルなでしこ」の戦いぶりは、優勝1回、準優勝1回、ベスト8が2回という抜群(世界でナンバーワン)の成績を収めてきた過去4大会のどの大会にも、当然、6戦全勝で優勝を飾った前大会にも負けないほどすばらしかった。

 J2の町田ゼルビアで育成年代の指導を担当してきた楠瀬直木監督がつくった今回のチームは、テクニックにおいてこれまでのレベルの高さを保ち、そのうえに相手ゴールに向かって試合を進めるアグレッシブさにおいて格段の進歩を見せていた。

 U−17女子ワールドカップは回を追うごとにレベルが高くなっている。欧州や南米で女子サッカーが急速に発展し、これまでのようなフィジカルの強さに高い技術を兼ね備えた選手がどんどん増えているのだ。各国とも「育成」に力を入れ、その「最前線」がU−17女子ワールドカップと言うことができる。「リトルなでしこ」に進歩がなければ、今大会は早い段階で敗退していただろう。

 準決勝のスペイン戦では、前半早々に先制点を挙げて優位に立ったが、3−0という最終スコアとは裏腹の苦戦だった。相手の強力な3トップ、なかでもこの大会のわずか1週間前に代表入りし、準々決勝から先発になったばかりの15歳のFWクラウディア・ピナのドリブルにかき回され、何回も決定的なピンチを招いたのだ。

 ここで立ちふさがったのがGK田中桃子(日テレ・メニーナ)だった。前半の再三のピンチを安定した守備で防ぐと、後半にはチーム全体が落ち着き、後半3分に相手オウンゴールで追加点、後半31分にはFW高橋はな(浦和レッズレディースユース)の決定的シュートチャンスをDFレイラ・アレシャンドリに引き倒されて得たPKを高橋自身が力強くゴール中央にけり込んで勝負をつけた。

 この試合では、右サイドバックとして出場しながら前半14分に左サイドで見事な突破を見せて高橋の先制点をアシストし、後半3分には相手のオウンゴールを引き出す突破とクロスを見せたDF冨田実侑(作陽高校)の攻撃センスとスピードが光った。

★★★  決勝戦、北朝鮮は今大会で見せてきた日本の攻撃力を恐れ、徹底した守備を見せた。日本選手がボールをもつと猛烈なアプローチをかけ、パスを出した後にも体当たりしてダメージを与えた。こうした狙いにオーストラリアのケイト・ヤチェビッツ主審がもう少し注意深く対処してくれていたら、結果は違ったものになったかもしれない。

 日本はゴール前に密集した北朝鮮の守備を破りきることができずに苦しんだ。立ち上がりのFW植木理子(日テレ・メニーナ)のシュートが相手GKにセーブされると、前半20分のMF長野風花(浦和レッズレディースユース)のFKのリバウンドをFW高橋が詰めたシュートはゴール右にそれ、前半28分にMF宮澤ひなた星槎国際高校湘南)が左からもってはいって放ったミドルシュートはバーを直撃した。

 北朝鮮はボールを奪うとパスというよりただ大きなクリアを前方に送ったが、このボールをエースのFWリ・ヘヨンが身長170センチという大きな体と馬力、そして見事なテクニックを生かしてキープ、カウンターを狙った。

 日本の守備陣もすばらしく集中していた。右サイドバックの冨田、センターバックの脇坂麗奈(セレッソ大阪堺レディース)と高平美憂(JFAアカデミー福島)、そして左サイドバックの北村菜々美(セレッソ大阪堺レディース)をボランチの長野と菅野奏音(日テレ・メニーナ)が助け、さらには右MF宝田沙織(セレッソ大阪堺レディース)と左MFの宮澤も加わって北朝鮮に攻撃の形をつくらせなかった。北朝鮮のチャンスは、ロングパスからの偶発的なものだけだった。

 後半も日本がボールを支配してシュートを放ち続けたが、21日間で6試合目、しかもフィジカル面で大きく上回る相手ばかりと戦い続けてきた疲労からか、攻撃の鋭さ、何よりも相手ペナルティーエリアにはいってからの落ち着きと精度が準決勝までよりわずかながら低かった。試合は0−0のまま90分間を経過し、即座にPK戦となった。

★★★

 連覇はならなかった。しかし今大会も、「リトルなでしこ」は日本の女子サッカーの質の高さと、続々と生まれるタレントを世界に強くアピールした。

 何度も書いてきたが、なでしこジャパンが再び世界のトップに立つには、「なでしこらしい」サッカーを貫かなければならない。その基本は、個々のテクニックと集団での攻守にある。そうしたサッカーをするための素材を、日本が圧倒的な層の厚さでもっていることを示したのが、この大会だった。それは同時に、日本の女子サッカーの育成の成功を物語っている。

 だがもちろん、大会MVPに輝いたキャプテンの長野にとっても、他の選手たちにとっても、そして残念ながらこの大会の21人にはいることができなかった選手たちにとっても、本当の勝負はこれからだ。前回書いたのと同じ言葉を、選手たちに伝えたいと思う。

 「このチームを見ながら思うのは、『あとはパーソナリティーの勝負』だということだ。

 成長するための努力を続けられるか—。
 勝負がかかったときに責任を背負って戦うことができるか—。
 あらゆる面で、サッカー選手として生きることができるか—。

 ここまでは優秀な指導者に導いてこられただろう。だがこれからは自分自身が何をし、どう生きるかにかかっている。このチームから、ひとりでも多くが強いパーソナリティーをもった選手になってほしいと思う」
(了)