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[なでしこジャパン]守備の粘り強さがもたらした無失点勝利、オランダ戦で示したチームの進歩

トピックス 大住良之(サッカージャーナリスト)

 高倉麻子監督率いるなでしこジャパンは6月9日(日本時間10日)にオランダ南部、ベルギーとの国境に近いブレダでオランダ女子代表と対戦し、1−0の勝利を得た。

 オランダとは2015年の女子W杯カナダ大会のラウンド16で当たり2−1で勝った後、その年の11月の親善試合(オランダ・フォレンダム)、ことし3月のアルガルベカップ(ポルトガル)順位決定戦と2試合連続で敗れていた。とくにアルガルベカップでは0−2から2−2に追いついて引き分けかと思われた後半ロスタイムに甘い守備から決勝ゴールを許し、悔しい思いをした記憶が選手たちのなかにも残っていたはずだ。

 アルガルベカップではオランダ攻撃陣のスピード、とくに右FWのファンデサンデンの馬力あふれるドリブルに振り回された。この試合でもオランダの攻撃陣はまったく同じ顔ぶれが並び、そのスピードをどう止めるかが課題だった。

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 その一方で、高倉監督はいくつかのテストをした。攻撃陣の右サイドに21歳のテクニシャンMF籾木結花を先発させ、FWにはケガがちだった菅澤優衣香を起用、ボランチには猶本光を置いた。

 注目は、これまで右MFとして起用されてきた中島依美を左サイドに置いたことだった。試合が始まると、高倉監督の狙いがよくわかった。相手の右FWファンデサンデンのドリブルを、中島が左サイドバックのDF鮫島彩と挟み込むように抑える—。これが功を奏した。

前後半にいちどずつファンデサンデンを捕まえそこねてピンチになったことがあったが、それ以外は彼女にスピードを上げるスペースを与えず、粘り強く抑え込んだ。このサイドでの守備の成功が勝利の重要なポイントとなった。

 左サイドの中島−鮫島コンビだけでなく、この試合では守備時の「粘り」が目についた。個人技があるうえにスピードもあり体格も大きいオランダの攻撃陣。パスが渡ったときにあわてて飛び込むと簡単にかわされて大ピンチになる。

チャレンジできない距離にあるときには飛び込まずに粘り、パスを出させてそのパスを狙うという守備がこの日のなでしこジャパンには徹底されていた。これは大きな進歩であり、この試合の最大の収穫だった。

 驚いたのは右サイドバックとして初先発したDF大矢歩の攻守両面での落ち着いたプレーぶりである。1994年11月生まれの22歳。現在はなでしこリーグ2部の愛媛所属だが、群馬県出身で「群馬FCホワイトスター」という地元クラブで中高時代を過ごした。

本来はFWの選手だが、高倉監督はサイドバックとしての可能性を見いだし、4月のコスタリカ戦(長野)では残り7分間の交代出場(左MF)でなでしこジャパンにデビュー。この試合では右サイドバックでフルタイム出場して、得意の攻撃だけでなく守備でもしっかりとしたプレーを見せた。

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 試合は前半0−0。守備に手応えを得た高倉監督は後半14分に菅澤に代えてFW横山久美を送り出した。59分間プレーした菅澤は、1本彼女らしいヘディングシュートを放ったが、相手ラインの背後に大きなスペースがあるなかでオフサイドにかかる場面が多く、ペナルティーエリアにはいってからのシュート力という持ち味を生かす場面はほとんどなかった。

 横山の最初のタッチははいった直後のFK。30メートル近い距離から強シュートを放ったが、左に切れた。そして2回目のタッチは後半17分。相手陣の中盤やや左でMF阪口夢穂がボールをもったとき、オランダの守備組織ははっかり整っていた。

そのDFラインから少し離れてボランチとの「間」のポジションをとった横山に阪口からパスが出る。だが横山にはその右から相手MFが詰めてくる。オランダの守備陣は、そう危ない場面とは感じなかっただろう。

 だが横山は左前方にゆっくりドリブルしながらマークにくるMFを引きつけ、自陣に戻ると見せかけたターンで簡単に外すと、右前に出る。ゴールまで22メートル。オランダのDFは当たりにこない。その瞬間、横山の右足がうなり、強烈なシュートがゴール右上隅に突き刺さった。なでしこジャパンの新エースが、またもその卓越したシュート能力を発揮したのだ。

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 この後オランダは猛攻に転じ、後半26分にはスルーパスを受けて右を突破したFWファンデサンデンのライナーのクロスをMFマルテンスが至近距離で合わせたが、試合直前GK池田咲紀子の負傷で急きょ出場したGK山下杏也加が驚異的な反応を見せてはじき出した。そして終盤のオランダの猛攻はチーム全体が落ち着いた対応で防ぎ、1−0のまま試合を終わらせた。

 7月からドイツのフランクフルトでプレーするエース横山が、いまやその決定力が世界でも屈指と言えるレベルにあることを再び証明したのは、高倉監督にとっても心強いことだっただろう。それとともに、この試合でチーム全体が見せた守備面の成長は、なでしこジャパンがまた一歩前進したことを示すものだった。

 この後なでしこジャパンはベルギーに移動し、6月13日(日本時間14日)にブリュッセルの東にあるルーベンという町でベルギー女子代表と対戦する。
(了)