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[皇后杯]FC今治の守護神・後藤優香、「頑張ることは当たり前…」大先輩の言葉を胸にチームを勝利へ導く

トピックス Takuma Omori(みなサカ編集長)

[2020.11.29 皇后杯1回戦 アンジュヴィオレ広島 1-2 FC今治レディース]

皇后杯 JFA 第42回全日本女子サッカー選手権大会は29日、1回戦8試合を行った。高円宮記念JFA夢フィールドではアンジュヴィオレ広島とFC今治レディースが対戦した。

試合の均衡が破れたのは17分、FC今治がフリーキックを獲得する。キッカーの橘高海音がゴール前に蹴ったボールを一際高い打点で頭に合わせたのは井上葉月。FC今治が先制する。

つづく38分にはコーナーキックのこぼれ球を木庭葵がシュート。このボールは相手DFに阻まれたが、こぼれ球をつないで左へ展開。左サイドで受けた浅海早希が鮮やかな右足ミドルを突き刺した。

立ち上がりから相手にボール支配されていたFC今治だったが、セットプレーのチャンスを逃さずに2得点につなげている。

2点を奪って先行逃げ切りを図る中、要所要所で存在感を発揮していたのがGK後藤優香である。

前半アディショナルタイム。広島は左WG池崎愛がスペースへ飛び出す。DFラインの足が止まって後手を踏む形となったが、ペナルティーエリアから猛然と飛び出してきたのが後藤だった。

「結果オーライ」と本人も苦笑いするほど際どいタイミングで、一旦は相手にかわされるシーンもありながらなんとかクリアしている。このシーンについて、後藤は次のように振り返っている。

「オフサイドだと思ってDFラインが止まってしまったので、相手の抜け出してきた選手を見えてないと思った。自分が出るしかないと思って出たんですけど、結果オーライといえば結果オーライでした。ちょっとDFラインが気が抜けたと言うか、あそこで(シュートを)はじいても守れないと思ったので出るしかないと思いました」



そして後半は広島の猛攻に防戦一方となる。後半だけでシュート21本、雨あられのシュートを止めまくった。

50分には斉藤礼佳のスルーパスに抜け出した川﨑咲耶がGKと1対1を迎える。「得意の形」と、本人も自信を持つシチュエーション。素早く飛び出した後藤がはじいてコーナーキックに逃れる。

その後も54分(小川優花)、76分(本藤理佐)、78分(小川)にも鋭いミドルシュートがゴールマウスを襲う。追い風を活かして積極的に遠目から狙ったシュートはいずれも枠を捉えていたが、後藤はことごとくキャッチ、または枠外へはじき出している。”ゾーンに入った”とはまさにこのことである。

「 試合に入る前からどのキーパーにも負けないという気持ちを持っていても入っているので、だからこそあの失点は悔しいですけど、今までやってきたことが出せたんじゃないかなと思います」

後藤は湘南学院出身。高3時の選手権では1回戦で大阪桐蔭を破り、ベスト16進出を果たしている。高1から3年間、正GKとしてゴールマウスを守った。卒業後は吉備国際大学を経て、卒業を待たずに今シーズンからFC今治に加入している。

「集中してゴールマウスを守ってくれたのももちろんですけど、フィールドプレイヤーを勇気づけるプレイだったかなというところでよりチームが引き締まってこの結果に繋がったと思います」と、FC今治の山本侑生監督は語る。

前述したように、この日は数々のプレーで味方を勇気づけただけでなく、前半アディショナルタイムの飛び出しなど、味方に喝を入れるようなプレーも見せた。

本人も「そのシーンにもかかわらず、誰かが体を張ればみんなが奮い立つ。この予選からずっとそうだったので、気が抜けたタイミングというのは自分の中で今だと思った」と語っている。

そんな後藤に高校時代の経験で今でも役に立っていることは何かと聞いてみた。すると「名言ですね」と、意外な言葉が返ってきた。

それは、「頑張ることは当たり前。誰かのために頑張ること」という言葉。湘南学院の卒業生でもある元なでしこジャパン・近賀ゆかり(オルカ鴨川FC)が選手権に出場する後輩たちに送った激励の手紙に書かれていた言葉だという。手紙自体は後藤が湘南学院に入学する前に送られ、それが受け継がれているという。

「大学の時も自分のためにと思っている時はうまくいかないイメージがあって、誰かに対して強い思いを持っている時はいいプレーができているかなって思います」と、後藤は卒業後もその言葉を胸に刻みながらプレーを続けてきた。それはFC今治でも変わらない。

「自分にとっては移籍一年目からチームに何かを返したいという思いもあった。うまくいくことばかりじゃなくて色々あってやってきたので、個人としてもチームにも思いを返せる場にしたい」