[選手権東京都予選]あるべき場所にあり続けるために…取り戻したポジションで躍動する十文字MF野村亜未
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第31回全日本高校女子サッカー選手権東京都予選は9月3日、駒沢オリンピック公園第二球技場で準々決勝4試合が行われた。第1試合では十文字と日体桜華が対戦。前半だけで8点を奪った十文字が後半も7点を追加して、15−0で圧勝した。
シードされた十文字はこの準々決勝が初戦。立ち上がりこそ決定的なシュートが枠を越えるなど硬さが見られたが、徐々に落ち着きを取り戻す。そして迎えた前半11分、コーナーキックを獲得する。キッカー、MF野口初奈(3年)の蹴ったボールにCB岡田恭佳(3年)が頭で合わせて試合の均衡を破った。
その1分後には右からのクロスに左SH早間美空(2年)が合わせて追加点。立て続けにゴールネットを揺らし、試合を優位に進めた十文字だったが、ここで気を抜くことはなかった。「2点目を取れたとしてもそこでもし返されたら相手に乗られてしまうかもしれない。自分たちにとって1点目と3点目が特に課題としてあって、そこを取り切ることを常に意識しています」(野村)。
チームの課題としていた3点目もすぐに生まれる。前半15分、早間のフリーキックに頭で合わせたのは先制点をアシストした野口。守備面での空中戦の強さを相手ゴール前でも発揮した。3−0として、早々に勝負を決定づけた。
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リードが広がっても十文字は攻撃の手を緩めることはなかった。両サイドを起点とした攻撃で次々とゴールを重ねていく。そうした中でハットトリックを達成しただけでなく、ゴールを演出する役割も演じたのが右サイドハーフとして先発フル出場した野村亜未(3年)である。
三つのゴールで特筆すべきは1点目と2点目だ。いずれも左SB小島世里(1年)のオーバーラップからのクロスに対して、ニアに走り込んできて頭で合わせた。小島はこの日が初スタメンだったが、前からホットラインが構築されていたかのように、出し手と受け手の息が合った得点シーンだった。
「(小島は)1年生でありながら左足の精度が高い。そこは信じていました。自分がニアに入らないとどんなボールが来るかわからないし、詰めてなくて後悔するのは自分なので、逆サイドの人が(ボールを)持った時には詰めることを意識してます」。
さらに得点場面について振り返る。「今までヘディングで決めることがなかったんですけど、サイドがトップと入れ替わってクロスに入ることをすごく意識していて、それが出来た。オフ(・ザ・ボール)の走りの面でも結構気にしてるので、そこがしっかり結果に繋がったかなと思ってます」。
野村はさらに、チームの2点目と9点目をアシストしている。いずれも右サイドからのクロスを早間、小島が決めたもの。早間は左サイドハーフ、小島は左サイドバック。サイドの選手からクロスが上がったとき、逆サイドの選手がシュートを狙う形は、今年の十文字が得意とする得点パターンである。
「例えばサイドハーフが持ったら、(逆サイドの)サイドバックまでみんな(ゴール前に)入ってくるというのが十文字としては当たり前なので、サイドの選手が入ってきているのが見えたら、自分はいいボールを上げることに専念しています」(野村)。
十文字はこの日、怪我人などの影響でスタメンに若干の変更があった。前述した小島のように初スタメンであっても得点に絡むことが出来たのは、チーム全員の意識が統一されていたからに他ならない。

攻撃における存在感が増しつつある野村だが、夏のインターハイまでは左サイドハーフとしてプレーしていた。だがこの選手権予選は怪我人の影響で選手の配置転換があり、もちろん本人の資質も考慮され、右サイドハーフへポジションを移している。それまでは2年生の三宅万尋がこのポジションを務めていたが、野村も本来のポジションは右サイドだったという。この変更をどう受け止めてプレーしているのだろうか。
「思い悩んだ時期があり、それもあってずっと左サイドでした。でも自分も3年生だし負けたくない。やらないで後悔するのが一番嫌なので、どんどん自分を出していくことを常に頑張ろうと思ってて、右を取り戻したというのも違うかもしれないけど、そこで自分のできることを精一杯やっています。右足だったら左足より精度もある。両方蹴れなきゃいけないというのもあるけど、そこでこだわれる部分はある。そこは自分なりに突き詰めています」
スペースに飛び出してからのシュート、クロスなど、左サイドではスピードを活かしたプレーが印象に残る。右サイドでのプレーは、よりバリエーションに富んでいる。ドリブルでゴール前に切り込み、精度の高いクロスでゴールをお膳立て。逆サイドの味方がボールを持てば、得点を狙ってゴール前に潜りこむ。ボールを持っても持たなくても、相手にとっては目を離すことが出来ない。
左サイドでの雌伏のときを経て、自分がいるべき場所に戻ってきた野村。本来のポジションを取り返して迎えた最後の選手権は、「インターハイ準優勝で終わってしまったっていう悔しい結果があって、怪我で出れないっていうその同年代の子たちがいて、もうその子たちは怪我で学年が終わるまで出れないっていうことだったので、本当にこの大会に自分たちはすごい懸けてます」。仲間のため、プライドを取り戻すため、このポジションで戦い抜く。