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[なでしこジャパン]アジア大会|価値ある挑戦、来年の糧になる銀メダル

トピックス 大住良之(サッカージャーナリスト)

 なでしこジャパンのアジア大会連覇はならなかった。

 韓国・仁川で開催されていたアジア大会の女子サッカー。なでしこジャパンは10月1日(水)の決勝戦で北朝鮮と対戦、1-3で敗れ、銀メダルに終わった。

 今大会は初戦で中国と対戦し、0-0で引き分けた後は、ヨルダンに12-0、チャイニーズタイペイに3-0、準々決勝で香港に9-0、準決勝でベトナムに3-0と、決勝戦まで強豪との対戦はなかった。

 圧倒的にボールをキープし、ほとんどペナルティエリアに引いて守る相手になかなかきれいな形での崩しが出来ない。試合結果に対する心配はなくても、精神的には苦しかったに違いない。そのような連戦を経ての決勝戦、スピードあふれる北朝鮮の攻撃をどう止め、攻撃を作るのか、興味があった。

 北朝鮮がキックオフから激しいプレッシャーをかけてくるのはわかっていた。しかしそれが1試合どころか、前半の途中までも続かないことも予想できた。試合開始直後は押し込まれるかもしれないが、ばたばたせずに対応すれば次第になでしこジャパンのペースになるはずだった。

■ベストの11人で北朝鮮に挑む

 佐々木則夫監督は、準決勝から3人を代えてこの試合に臨んだ。GKに海堀あゆみ、センターバックに岩清水梓、左MFには吉良知夏。この大会でのパフォーマンスを考慮し、最強の11人を送り込んだのだ。

 だが立ち上がり、思いがけない失点が生まれる。前半12分、右サイドからの北朝鮮のFK。ペナルティーエリア内、ボールサイドでプレーしようとした北朝鮮の選手が触れられず、ボールはその背後にいたMFキム・ユンミの足元に。マークしていたMF阪口夢穂の対応がわずかに遅れ、すばやく右足を振り抜いたキム・ユンミのシュートが決まった。

 20分を過ぎるとやはり北朝鮮のプレスが弱まり、なでしこのペースとなる。この大会を通じて調子を上げてきたMF宮間あやが積極的に仕掛け、MF川澄奈穂美とDF有吉佐織のコンビを使って攻め込む。決定的な形こそ作れなかったが、この試合のなでしこジャパンはプレーの精度、スピード、全体の動きは今大会随一といってよく、同点にすれば逆転は十分可能と思われた。

 ところが後半、またしても立ち上がりに痛い失点を喫する。ずっと日本が攻め込んでいた時間だった。川澄のクロスがはね返されたが、自陣ペナルティーエリア前で拾ったMFチョン・ミョンンハには宮間が対応していた。しかしチョン・ミョンハはかまわず日本のDFライン裏にロングパス。タイミングよく飛び出したFWラ・ウンシムが追いすがる日本DFを振り切って2点目を決めた。

 この直後、なでしこジャパンが見事な1点を決める。

 後半から吉良に代えてFW菅澤優衣香を入れ、ゴール前に高さの要素を作った日本。左奥からDF臼井理恵がその菅澤の頭をめがけていたボールに菅澤は触れることができず、ペナルティエリア右角の川澄が拾う。冷静にボールをコントロールした川澄に北朝鮮DFは詰めることができない。

ゴール前にFW高瀬愛実。その足元に鋭いパスが出る。しかし高瀬はジャンプしてこのボールをスルー。その背後から走り込んできた宮間が鋭く声をかけたのだ。簡単なシュートではなかった。しかし宮間は走り込みざま右足のインサイドでボールを正確にゴール右隅に送り込んだ。宮間の高い技術を示したゴールだった。

 再び1点差。なでしこジャパンが猛攻をかける。必死に守る北朝鮮。左右両サイドからの崩しがこれまでの試合になく機能し、なでしこが多彩な攻めでチャンスをつくる。しかし菅澤、高瀬らのシュートがわずかに正確さを欠く。宮間のFKもゴールを破ることができない。

 そして後半42分、北朝鮮がカウンターをかける。MFチョン・ミンハが自陣からボールを運び、左からフォローしたDFユン・ソンミに出す。そのクロスを、左から走り込んだFWホ・ウンボルが頭で決めたのだ。

■増矢を使い続けた佐々木監督

 1-3。 連覇を目指し、また来年のワールドカップに向けて若手とベテランの融合を図ったなでしこジャパンには、厳しい結果となった。

 しかし今大会は、価値ある挑戦となったのではないか。18人という少ない選手、しかも負傷者が続出するなかで、左サイドバックのDF臼井、長身センターバックのDF長船加奈、北原佳奈、そして何よりもFW増矢理花といった選手たちが長時間プレーした。

 注目すべきは増矢だ。得点は準々決勝・香港戦の2点だけ。その他の試合では、決定的なチャンスを何度もつかみながら決めきれなかった。決勝戦では、ゴール前で消極的な姿勢も見られた。

 それでも佐々木監督は使い続けた。私は佐々木監督のこの決断を高く評価したい。増矢は近い将来、来年のワールドカップにでも、日本の攻撃をリードする可能性をもった選手だ。その才能は、ちょっとしたボールの受け方、身のこなし、パスのセンスなどで明らかだ。

 今回は悔しい思いをし続けたに違いない。しかしその悔しさは、来年のカナダでの活躍のための重要な糧になるのではないか。連覇はならず、残念だった。しかし今回のアジア大会は、なでしこジャパンにとって価値ある挑戦だったと思う。

■女子サッカーの魅力が詰まったワンシーン

 最後に、北朝鮮のがんばりについて書いておきたい。

 後半42分の3点目。パスを受けた左サイドバックのユン・ソンミは、自陣ペナルティーエリアから80メートル以上をダッシュして上がってきた。出されたボールを追いながら、いまにも倒れそうなほど、バランスを崩していた。

 しかしユン・ソンミンは追いつき、渾身の力で左足クロスを送った。ライナーの、魂のこもったクロスだった。ゴール前では、日本のDF有吉が正しくポジションを取り、ダビングヘッドでこのボールに触れた。しかしその内側に、遅れてはいってきたFWホ・ウンボルがあきらめずに飛び込んで頭を突き出した。有吉がクリアしたはずのボールがその頭に当たり、ゴールに突き刺さった。

 なでしこジャパンにとっては残り数分で突き放される打撃の失点である。

 しかし私はこのゴールに感動した。ブラジルで行われたワールドカップのスタンドで見た20試合のどのシーンよりも感動した。ユン・ソンミのエネルギーを振り絞り尽くす力に、有吉のきちんとした守備に、ホ・ウンボルの惜しまぬ献身に、そして女子選手たちの精神力に感動したのだ。これこそ女子サッカーの魅力だと思った。

(了)