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[高校総体関東大会]鹿島学園|総力戦でつかんだ夏の全国、ターンオーバーでチームの結束高める

トピックス Takuma Omori(みなサカ編集長)

[2023.5.29 高校総体関東大会 3位決定戦 前橋育英 2(3PK4)2 鹿島学園]

インターハイ出場権獲得のためだけでなく、本大会を見据えてもチームを大きく前進させる一手だった。

5月27日から29日にかけて3連戦で行われた今大会、鹿島学園(茨城)は大胆なターンオーバーを敷いて臨んだ。今大会登録された25名のメンバーのうち、22名がスタメンで出場。控えGKをのぞき、24名が試合のピッチに立っている。

1回戦では暁星国際(千葉)に2ー1で逆転勝利を収める。この結果により、残り2試合で1勝すれば、インターハイ出場が決まる。この前提条件のもと、星槎国際湘南(神奈川)との準決勝では、前日からフィールドプレーヤー全員を入れ替えた。

鹿島学園は立ち上がりからチームのスタイルである前線からのプレスを敢行。主導権を引き寄せると、前半16分には増田帆花(3年、GRAMADO FC TOKINAN)が先制点を奪う。その後もフレッシュな選手を投入しながら積極的な守備を続けていく。

だが勝利を目前にした後半アディショナルタイムに同点ゴールを許すと、延長前半4分には逆転ゴールを奪われる。終わってみれば1ー2で破れたものの、優勝候補の一角でもあった星槎湘南を崖っぷちまで追い詰めた鹿島学園のプレーには、誰もが心を揺さぶられたに違いない。

もちろんサポートに回っていた、1回戦に先発した選手たちも言わずもがなである。DF中野絢(2年、白岡SCL)は次のように話した。「鹿島学園は全員で戦って、本当に層が厚い。サブの選手もしっかり戦ってくれて、めっちゃ感動する試合を見せられたら、自分たちもやるしかないと思った。このチームで出来て、本当によかったなと思います」



迎えた3位決定戦、攻撃力の高い前橋育英(群馬)との一戦は接戦となる。前半20分にFW宿野部夏澄(1年、府ロクレディース)のゴールで先制した鹿島学園だったが、前半34分と後半6分に失点。前日につづいて逆転を許してしまう。

だが同じ轍は踏まなかった。同20分、フリーキックからの混戦で押し込んだのは、コメントを紹介した中野。気持ちでゴールにねじ込んだ。その後は規定の70分、10分ハーフの延長戦でも均衡は破れず、PK戦の末に鹿島学園が勝利を手にした。

晝間健太監督は開口一番、この2日間のチームの成長ぶりを喜んだ。

「うちは延長戦になるとPKの前に負けてしまう試合が多くて、昨日も延長負けしてしまったんですけど、本当に最後まで普段スタメンで出てない子も含めて、しっかり気持ちを見せて戦ってくれた姿があったからこそ、今日、先制しましたけど逆転されて追いついて、最後の延長まで自分たちのスタイルを崩さずに攻める姿勢とか、諦めない姿勢につながった。

昨日の夜のミーティングでも、普段サポートしてくれてた子たちがあそこまで気持ちを見せて戦ったのに、私たちが戦わないでどうする。っていうのを僕が言う前に彼女たちが選手ミーティングをして、キャプテンがそういうことを口にしていた。いい意味でチームがひとつになるような試合を昨日できたことが、今日の一番の勝因だったんじゃないかなと思います」

PKを成功した小畑蘭がベンチに向かってガッツポーズする。 PKを成功した小畑蘭がベンチに向かってガッツポーズする。

準決勝に先発して、3位決定戦でも重要な役割を果たした選手がいる。

左サイドバックの小畑蘭(3年、1FC川越水上公園メニーナ)。準決勝ではキャプテンマークを巻いてチームを率いた彼女は、延長後半8分にキャプテンの玉井小春(3年、浦安FAセレイアス)との交代でピッチに立つ。

「県予選まではスタメンでした。関東大会からサブとポジションでしたが、献身的にチームのことはやるし、練習の取り組み方もチームで1、2番で良い。PKも見えてたので、絶対彼女に蹴らせようというニュアンスも含めて交代した」(晝間監督)と、プレッシャーのかかるPKもきっちりと決め、指揮官の信頼に応えてみせた。

準決勝で先発フル出場したMF藤原かのん(1年、GRAMADO FC TOKINAN)は後半11分、MF工藤早樂(3年、カシマアカデミーFCジュニアユース)に代わって送り込まれる。

「早樂はハードに守備ができる選手なんですけど、藤原はボールを持てて相手を剥がしたりとか、ビルドアップに参加できる。攻撃につなげられる選手なので、攻撃に出てくぞっていう意味も含めて起用した」(晝間監督)と、試合の流れを引き寄せることに一役買った。



一方、準決勝でベンチから誰よりも声をかけていた工藤は、交代を命じられて悔しさを隠すことが出来なかった。今にも泣き出しそうな表情でピッチに戻っていく。しかしベンチに戻るやいなや気持ちを切り替える。仲間を鼓舞し、指示をする声がひっきりなしにピッチに鳴り響く。その声はコーチングエリアに立つ、晝間監督よりも大きいほどだった。

「彼女とは小学校からの付き合いなんですよ。今やるべきことをやりなさいという一言で、切り替えてベンチでもしっかり声出してくれた。そういう気持ちのある子が増えてきてくれたからこそ、少し層が厚く見えてくれたのかなっていうところですね。そこまで技術的にいいメンバーがたくさん増えたかといえば、本当にそうじゃないと思うので」(晝間監督)

準決勝ではチームのスタイルである前線からのプレスを最後までやり抜いた。監督の意図や期待に応えてプレーや行動ができる選手も複数いる。ピッチ内外での個々の成長がターンオーバーを成功に導き、その成功がチームをひとつにまとめて、さらなる成長を促した。この大会でさらに高まった団結力は、インターハイでも原動力となるに違いない。