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[皇后杯]藤枝順心FW正野瑠菜、あえて厳しい環境に飛び込んだ東北出身FWが守備面で成長を実感する

トピックス Takuma Omori(みなサカ編集長)

[皇后杯1回戦 ノルディーア北海道 0-3 藤枝順心高校]

地元・藤枝総合運動公園サッカー場にノルディーア北海道(なでしこリーグ2部)を迎えた藤枝順心高校。攻撃陣のポジションチェンジをきっかけに流れを引き寄せた。

20分には正野瑠菜がDFを背負いながらボールを受け、反転して左足で齋藤花菜へつなぐ。齋藤のパスを受けた久保田真生がドリブルからシュート。この試合、最初の決定機を作り出す。だが、右ウイングとしてスタートした正野は前半、なかなか思うようにプレー出来ていなかった。

「相手が変わったり、サイドを変えることで、景色が変われば見える場所も違ってきますし、相手も対戦する選手が変わるだけでタイプが変わってやりづらいと思う。チームとしての流れを作っていく上でも少しリズムを取り戻す時間ができるほうがいいなということで、意図的にサイドを入れ替えた」(中村翔監督)

中村監督は前半途中に配置転換を指示する。正野を右から左、左の窓岩日菜をインサイドハーフ、インサイドハーフの山田歩美を右サイドへとポジションチェンジした。これにより徐々にチャンスが増えると36分、ピッチ中央付近で窓岩によるボール奪取から齋藤の先制点が生まれる。



1-0で折り返した56分には追加点。左サイドでボールを受けた正野がペナルティーエリア手前にボールを持ち出す。利き足ではない左足を思い切って振り抜くと、ボールは風にも乗ってGKの頭上を越えゴールに吸い込まれていった。

「ずっと中にクロスを上げてて、相手もクロスを読んでいたので、ゴールが空いてたら撃とうと思ってて、シュートを狙ったんですけど、シュートはあまり上手く出来なかったけど、風でいい感じに入ってくれたので良かったです」と、正野は振り返った。49分には右足に持ち替えてクロスを上げているが、相手GKにキャッチされている。相手の意表を突いたプレーがゴールに結びついた。

つづく65分には、左サイドで球際の競り合いを制した正野から齋藤へボールが渡る。齋藤のクロスに合わせたのは、右サイドにポジションを移した山田だった。ゴール前に走り込むと、左足ダイレクトでゴールネットを揺らした。

試合展開や相手に応じて、選手が柔軟にポジションを変更できるチームの強みを存分に活かした。藤枝順心は初戦を3-0で快勝すると、2回戦ではなでしこリーグ1部に所属するコノミヤ・スペランツァ大阪高槻に3-2で勝利。3回戦まで勝ち上がっている。

正野はマイナビベガルタ仙台レディースジュニアユース出身。山形県の実家から仙台まで通っていたという。中学を卒業するとユースには昇格せずにクラブを出て、東北からも離れて全国屈指の強豪校の門を叩いた。

「ベガルタでやっていたときはずっとスタメンで出れていました。もっと上手くなりたかったし、厳しい環境に身を置いて成長したかった。こういう厳しいところにきたいと思った」。

そう正野が話すとおり、全国から腕に覚えのあるものが集まってくる藤枝順心で試合に出場することは簡単ではない。チームが2連覇を達成した昨年の選手権では、30人の登録メンバー入りを果たした。だが、浅田幸子、安藤麻耶といった同学年のチームメイトが出場機会を得たのとは対照的に、ベンチ入りすら叶わなかった。

「去年はあまり出られなくて悔しかった。そこで腐るとかじゃなくて、自分の課題があるからそれを克服して、もし出られたときに自分のプレーが出来るように、自主練とかも頑張ってやっていました。シュートやトラップの質を良くすることと、ゲームではプレスのかけかたを意識した。自分の置かれた環境で少しでも成長できるようにと思っていました」

逆境にも腐ることなく、コツコツと自分を磨き続けた。2年目の今年はその努力が実りつつある。夏のインターハイでは選手権よりも少ない17人の登録メンバー入りを勝ち取り、全4試合に出場。東海大福岡との2回戦では先発フル出場を果たした。しかし、「決勝のとき最後の守備で自分が飛び込んじゃったので、そういうミスはないように毎日練習で守備も上手くなりたいと思って取り組んでいます」と、新たな課題に直面する。

こちらから質問したわけではなかったが、正野は繰り返し守備について口にしている。試合に出られなかった1年生のシーズン、出場機会を得られたインターハイ。節目節目で守備の課題と向き合ってきたことがわかる。

「小学校、中学校ではあまり守備は好きじゃなかったんですけど、守備をやる大切さもわかって、今は嫌じゃなくなりました。プレスをかけるときの立ち位置をいっぱい学べた」。

最後に、藤枝順心に来て成長したと感じるところを尋ねると、またしても挙げたのは守備のこと。(攻撃を含めて)チーム戦術を理解し、守備のタスクをしっかりと遂行することが出来るようになったからこそスタメンの機会が増えたに違いない。守備の成長が彼女の道を切り開いたのだ。

11月は選手権東海大会決勝で決勝点を挙げ、皇后杯という大舞台でも得点をマークした(つづく2回戦でも1得点)。だが、「攻撃はまだまだ課題が多い」と満足はしていない。成長著しい彼女の選手権に期待したい。