[選手権東北大会]専大北上MF髙鹿沙紀|貴重な同点弾を挙げた1年生を突き動かした先輩たちの一生懸命さ
トピックス2023年10月29日(日)
第32回全日本高等学校女子サッカー選手権東北大会 3位決定戦
専大北上 1(7PK6)1 尚志
得点:[専大北上]髙鹿沙紀(62分)、[尚志]大宮愛乃(14分)
インターハイ東北大会でも全国出場を争った両者が激突した3位決定戦。前半14分に尚志(福島①)が先制すると、後半22分に追いついた専大北上(岩手①)がPK戦も制して全国出場権を手にした。
チームの苦境を救ったのは、ここまで公式戦での得点がない1年生だった。
0-1で迎えた後半20分、専大北上は「技術はあるしキックも蹴れるが、なかなか大事なところでゴールという結果を出せてなかった。決めて来い!」と、佐藤徳信監督がMF髙鹿沙紀(1年、八戸FC)に発破をかけて送り出す。
「もともとプランにあった交代。大野妃菜、昆野杏梨と相性がよく、細かいことをやりながら変化を加えられる」と、ポストプレーが得意なFW佐藤なごみ(3年、いわてグルージャ盛岡ジュニアユース)との交代で流れを変えようと試みる。
「先輩たちとまだこのチームでサッカーしたかった。絶対に決めてやるっていう気持ちで入りました」と、強い気持ちでピッチに立った髙鹿に最初のシュートチャンスが訪れたのは交代から2分後のことだった。
昆野杏梨(2年、水沢ユナイテッドFCプリンセス)からのパスを受けたMF白石朝香(3年、五戸町スポーツクラブ)がシュートするが相手にブロックされる。そのこぼれ球を髙鹿が拾うと、「前向いたらスペースあったので、打てると思った」と、そのまま右に持ち出して迷うことなく右足を振り抜く。鮮やかな弾道のシュートがゴールネットに突き刺さると、大きく飛び跳ねてガッツポーズ。先輩たちにもみくちゃにされた。
ひとつ前のプレーでシュートを試みたキャプテンの白石は、髙鹿のシュートシーンを次のように振り返る。「沙紀の技術は練習の時からわかっている。沙紀なら打つって思った。蹴った瞬間に入ったって思いましたね」。
そして、PK戦では8人目のキッカーとして登場。決めれば”全国出場決定”という場面で「マジ緊張した」と振り返ったが、落ち着いて左に蹴りこみ成功。ふたたび歓喜の輪が広がった。
公式戦初ゴールを挙げ、チームの救世主となった髙鹿だが、この一年で内面的な変化もあったという。彼女の成長を促したものはなんだったのか。佐藤監督は次のように話す。
「あいつも言ってたんですけど、先輩たちが本当に一生懸命やっている。そういう姿を見て、勝つか負けるかっていうのにこだわるようになってきて、勝ちたいっていう欲があいつの中で出た。そうなってきてからすごく変わってきてる。だいぶ内面が変わって、プレーも変わってきて、今いいですよ」と、教え子の成長に目を細める。
ピッチでのプレーとは裏腹に、普段の髙鹿は控えめな印象だ。実は彼女は年代別代表に招集されたことがあるのだが、そうしたこともあまり話したがらない。同郷(青森)の先輩でもある白石は、ピッチの中と外のギャップについて次のように話してくれた。
「何も知らない人が沙紀を見たらいつもふわって感じ。でもサッカーになると雰囲気が変わるんです。プレーを見れば、そういう人たちの考えをひっくり返すぐらいの技術を持ってるんじゃないかなって」。
髙鹿は自身の成長について、「先輩の助けになることをしようと思って、片付けとか意識的に頑張ってました」と、多くは語らない。それでも「先輩のことが好きだから」と一言、理由を明かしてくれた。
先輩たちの一生懸命さが髙鹿の心を動かし、彼女自身の成長へとつながった。その成長は全国出場という結果でチームに還元されている。人を動かす力こそが、インターハイ8強、夏冬連続出場という歴史を作ってきたこのチームの原動力だったのかもしれない。
選手権は残念ながら1回戦で修徳に敗れ、初戦突破はならなかった。だが先輩たちの想いを髙鹿をはじめとする後輩たちが引き継ぎ、新たな歴史を作っていくに違いない。
髙鹿がPKを決めると先輩たちが駆け寄り、歓喜に包まれた。