[高校総体]”聖和らしさ”を追求したインターハイ、”もう一工夫”を求めて選手権に挑む
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聖和学園と言えば、”パスサッカー”の老舗として知られる。磨き上げた技術をベースに、チームの創設者である國井精一前監督による独特の理論を掛け合わせたスタイルは世界で唯一無二の存在である。
選手権のテレビ中継やインターネット配信により、聖和学園のスタイルは多くのサッカー少女を惹きつけた。北は北海道から南は沖縄まで、名門クラブのアカデミーの選手までもが”聖和のサッカー”をするためにチームの門を叩いた。
選手権で3度の優勝(1992年、98年、01年)を誇り、第1回大会から出場する唯一のチームである。だがここ数年は2016年度のベスト8を最後に、上位進出からは遠ざかっている。
ベスト16入りした2020年度をのぞくと、すべて初戦敗退。2017年度、18年度、19年度はPK負け。21年度と22年度はその年の優勝校との対戦で敗れている。聖和のスタイルの一端をピッチで表現することはできても、それが結果につながらないのが近年の課題だった。
スタイルと結果を両立させるために奮闘してきたのが、2016年に就任した曽山加奈子監督だ。

「変えてはいけないもの」は一つだけ。それは虎屋の“コア”
室町時代に創業した老舗和菓子店「とらや」の17代社長・黒川光博氏(現在は会長)がメディアの取材で語った言葉である。
きっとそれは聖和学園にも当てはまる。これまで築いてきた聖和学園のサッカーを受け継いでいくこと。勝つために必要なことを取り入れること。曽山監督は就任以来、このふたつを両立させるための試行錯誤をつづけてきたのではないかと、筆者は取材をしながら感じている。
とらやにとっての”コア”は、「本当に美味しいものを誠実につくること。一生懸命に和菓子を極めること」だそうだ。では聖和にとってのコア、言い換えれば”聖和らしさ”とはなんだろうか。指揮官と選手に聞いてみた。
▽曽山加奈子監督
「パスをつなぐことが基本なんですけど、見ている人たちが”すごいな”とか、スタッフ陣が”今のすごいな”という言葉が自然に出てくるような魅せるプレーをして、なおかつ勝ちにこだわる。というところが聖和らしいサッカーなので、そこを追及していきたい」
▽佐々木はるか
「今日みたいなすごいハイプレスの中でもダイレクトやツータッチでパス回して、パスワークでゴールまで行って決めるサッカー」
▽米村歩夏
「技術・アイデア・判断で、身体が強い相手でもそれをもろともしないでゴールにつなげられるサッカー。それで見ている人が楽しいと思ったり、ワクワクするようなサッカー」
粘り強い守備で相手の攻撃をしのぎ、数少ないチャンスをモノにする。これまで県内のライバル・常盤木学園や全国の強豪校との戦いでは、そんな試合展開がよく見られた。ゴールシーンは聖和学園らしい崩しからの得点であったが、そうしたシーンは限られていた。
今年は攻撃では三木利章コーチの指導により、ドリブル力が向上。とりわけ本田悠良(3年)、米村歩夏(3年)、今村栞愛(2年)といった前線の選手が積極的に仕掛け、シュートに持ち込む場面が増えた。人が密集しているゴール前でもキックフェイントなどで相手をかわし、ゴールに迫っていく。彼女たちがドリブルを仕掛けると、一気に目の前の視界が開ける瞬間がある。ゴール裏で撮影していると、そんな感覚に陥ることさえあるのだ。
加えて、複数のポジションを担うことのできる選手が増えた。試合展開によって選手の配置を変えたり、さまざまなポジションをとる。流れの中でもポジションチェンジをひんぱんに行い、相手に的を絞らせない。
パスとドリブルの融合による攻撃力向上により、主導権を握れる時間が増えた。選手の距離感がよく、ボールを失ってもすぐにこぼれ球を回収したり、相手に寄せていくことができるようになった。その結果、より高い位置から攻撃を始めることが出来ている。前線からの守備、素早い攻守の切り替えといった守備力の強化は、曽山監督が就任してからずっと取り組んできたことである。

それでもインターハイ決勝では藤枝順心に完敗した。曽山監督は試合後、次のように振り返る。
「うちは選手権も初戦敗退が多かったので、インターハイでは決勝まで来れてよかったですけど、決勝の舞台で聖和らしいサッカーを出し切ることが出来なくて得点もとれなかった。藤枝順心さんに完敗したなというのが素直な感想です。(ゴール前で聖和らしさを出せた場面もあったが?)練習してきたところだったので、少しでも出せたのはよかったですけど、そこからもう一工夫が本来の聖和なので、選手権に向けてそこをしっかり成長させていきたいと思っています」
チーム、監督、選手が”聖和らしさ”を追求してきたインターハイでは最後に悔しさを味わったが、決して挫折ではない。聖和学園の挑戦は始まったばかり。”聖和らしさ”にこだわり、指揮官の言う”もう一工夫”を追求するため、次の舞台である選手権に挑む。