[インターハイ]藤枝順心、選手を信じ、応えた選手たち―“カケナチオ”と自立心でつかんだ夏の戴冠
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令和6年度 全国高等学校総合体育大会 決勝
藤枝順心 0-2 大商学園
得点:[藤枝順心]宮路花菜(4分)、葛西唯衣(65分)
令和6年度 全国高等学校総合体育大会は8月3日、日鋼室蘭スポーツパーク(北海道室蘭市)で決勝戦を行い、藤枝順心(静岡)が大商学園(大阪)を2-0で下し、2年連続3回目の優勝を飾った。試合は前半4分の早い先制点と、後半30分のダメ押しゴールで勝負を決定づけた。
初戦の専大北上(岩手)戦では試合終了間際に追いつかれ、PKの末に勝ち上がるなど厳しい試合も経験した。決勝ではその経験を無駄にすることなく、追加点を奪って隙のない戦いぶりで完勝した。
大商学園はFW佐藤ももサロワンウエキ(2年)をターゲットにロングボールを使った攻撃を仕掛けた。しかし、藤枝順心のDF永田優奈(3年)が厳しいチェックで相手の攻撃の起点を封じ込め、試合の主導権を握った。
前半2分、MF植本愛実(3年)がペナルティエリア右付近にロングフィードを送り、FW藤原凛音(3年)がゴールに向かって仕掛ける場面を作る。この場面は相手にクリアされたが、その後もセカンドボールを拾って次の攻撃へとつなげていく。
そして、前半4分に待望の先制点が生まれる。MF鈴木由真(2年)がドリブルでペナルティエリアに侵入すると、こぼれ球を拾った右SB松本琉那(3年)がダイレクトでゴール前へラストパスを送る。これをFW宮路花菜(3年)がワンタッチでゴールに蹴り込み、リードを奪った。
大商学園もゴール前で必死にクリアしていたが、藤枝順心はそのボールを三度にわたって回収する。この一連の攻撃も相手のクリアボールを拾って、植本がロングボールを蹴り入れたところから始まっている。セカンドボールの争いが両チームの明暗を分けた。
前線からプレスをかけ、相手のDFラインに圧力をかける一方で、最終ラインでは柘植沙羽(3年)と永田が中心となり、堅固な守備ブロックを築いた。攻守の切り替えが早く、前述したようにセカンドボールの争いでも強さを発揮する。
とりわけ、U-17日本女子代表の佐藤への対応は完璧だった。シュートを1本も打たせなかったばかりか、前線で起点になることさえ許さなかった。もちろん佐藤も手をこまねいていたわけではない。
この試合、大商学園は3本のシュートを記録している。そのうち2本は佐藤が受けて獲得したコーナーキックから、もう1本も佐藤のパスから生まれたが、いずれもゴールにはつながらない。ゴール前で起点を作らせたり決定的な仕事させることはなかった。
前線からの守備をかいくぐられて、ゴール前まで持ち込まれたシーンもある。後半27分のことである。佐藤のカットインから途中出場したFW上村真生子(1年)へパスが出される。渡れば決定的な場面だったが、まずはDFラインから永田が素早く前へ出て佐藤へプレッシャーをかけにいく。ここではパスを出されたが、上村の足もとに入ったボールを柘植が阻み、ことなきを得ている。息もぴったりなチャレンジ&カバーがチームをピンチから救った。
今大会の優秀選手には永田が選出された。どちらが選ばれたとしても、もうひとりの存在なくして成り立たなかっただろう。二人はまさに「ニコイチ」の存在として、大会屈指のセンターバックコンビを形成した。
「うちの選手たちはピッチの中で感じたことをコミュニケーション取るので、あとは任せてれば大丈夫だな。準決勝もそうですけど、顔がかなり引き締まってたので、そんなに多く語る必要はないなというのもあった。逆に、流れを変える選手だったり、試合を終わらせる選手たちがどういうモチベーションでピッチに入れるかを考えた時に、やっぱり一緒にボール蹴ったりした方が、自分の感性が研ぎ澄まされる。今日この子やってくれそうだなとか、そういうのをちょっと感じられる大事な時間だなと僕は思うので。あれで(選手が)リラックスできればいいです。色んなものも加味して、ハーフタイムは選手と一緒にボール蹴ってましたね」。
その全幅の信頼に応えるかのように、藤枝順心の選手たちは後半も集中力を保ち、追加点を奪って試合を締めくくった。普段から選手とのコミュニケーションを大切にする、中村監督らしいエピソードである。
選手の自主性を促す指導法は多くあるが、藤枝順心の場合は「選手の自立」がベースになっている。指導者が選手に信頼を置き、選手がそれに応える形でチームが成り立っているのだろう。この背景には、選手に投げかけ続けた指導の積み重ねがあるに違いない。
インターハイ優勝は全国で1チーム、登録された選手20名しか成し得ることが出来ない。しかし、「自立した選手」になることは、誰もが目指すことができる目標だ。結果を残すことも素晴らしいが、その過程で得られる成長にも目を向けてほしい。その成長が卒業後も選手の役にたつ土台となるからである。
2024年8月3日(土)
令和6年度 全国高等学校総合体育大会 決勝
藤枝順心 0-2 大商学園
得点:[藤枝順心]宮路花菜(4分)、葛西唯衣(65分)
令和6年度 全国高等学校総合体育大会は8月3日、日鋼室蘭スポーツパーク(北海道室蘭市)で決勝戦を行い、藤枝順心(静岡)が大商学園(大阪)を2-0で下し、2年連続3回目の優勝を飾った。試合は前半4分の早い先制点と、後半30分のダメ押しゴールで勝負を決定づけた。
初戦の専大北上(岩手)戦では試合終了間際に追いつかれ、PKの末に勝ち上がるなど厳しい試合も経験した。決勝ではその経験を無駄にすることなく、追加点を奪って隙のない戦いぶりで完勝した。
大商学園はFW佐藤ももサロワンウエキ(2年)をターゲットにロングボールを使った攻撃を仕掛けた。しかし、藤枝順心のDF永田優奈(3年)が厳しいチェックで相手の攻撃の起点を封じ込め、試合の主導権を握った。
前半2分、MF植本愛実(3年)がペナルティエリア右付近にロングフィードを送り、FW藤原凛音(3年)がゴールに向かって仕掛ける場面を作る。この場面は相手にクリアされたが、その後もセカンドボールを拾って次の攻撃へとつなげていく。
そして、前半4分に待望の先制点が生まれる。MF鈴木由真(2年)がドリブルでペナルティエリアに侵入すると、こぼれ球を拾った右SB松本琉那(3年)がダイレクトでゴール前へラストパスを送る。これをFW宮路花菜(3年)がワンタッチでゴールに蹴り込み、リードを奪った。
大商学園もゴール前で必死にクリアしていたが、藤枝順心はそのボールを三度にわたって回収する。この一連の攻撃も相手のクリアボールを拾って、植本がロングボールを蹴り入れたところから始まっている。セカンドボールの争いが両チームの明暗を分けた。
藤枝順心は後半30分に葛西唯衣(写真左)が追加点を挙げる。1回戦と同じ轍を踏むことなく、逆に勝負を決定づけた。
幸先よく先制した藤枝順心を勝利に導いたのは守備だった。中村翔(かける)監督は、カテナチオと引っ掛けて「カケナチオ」と名づけ、自身のSNSで発信した。カテナチオはゴール前に人数をかけ、堅守速攻というイメージが強い。カケナチオは守備的ではない。前線からプレスをかけ、相手のDFラインに圧力をかける一方で、最終ラインでは柘植沙羽(3年)と永田が中心となり、堅固な守備ブロックを築いた。攻守の切り替えが早く、前述したようにセカンドボールの争いでも強さを発揮する。
とりわけ、U-17日本女子代表の佐藤への対応は完璧だった。シュートを1本も打たせなかったばかりか、前線で起点になることさえ許さなかった。もちろん佐藤も手をこまねいていたわけではない。
この試合、大商学園は3本のシュートを記録している。そのうち2本は佐藤が受けて獲得したコーナーキックから、もう1本も佐藤のパスから生まれたが、いずれもゴールにはつながらない。ゴール前で起点を作らせたり決定的な仕事させることはなかった。
前線からの守備をかいくぐられて、ゴール前まで持ち込まれたシーンもある。後半27分のことである。佐藤のカットインから途中出場したFW上村真生子(1年)へパスが出される。渡れば決定的な場面だったが、まずはDFラインから永田が素早く前へ出て佐藤へプレッシャーをかけにいく。ここではパスを出されたが、上村の足もとに入ったボールを柘植が阻み、ことなきを得ている。息もぴったりなチャレンジ&カバーがチームをピンチから救った。
今大会の優秀選手には永田が選出された。どちらが選ばれたとしても、もうひとりの存在なくして成り立たなかっただろう。二人はまさに「ニコイチ」の存在として、大会屈指のセンターバックコンビを形成した。
相手のトップ下とセンターフォワードに対応する両CB永田 優奈(左)と柘植沙羽(右)。
試合以外でも印象的な場面があった。ハーフタイム中、ピッチでリザーブの選手たちとボールを蹴る中村監督の姿だ。多くの監督がロッカールームで指示を出すのが一般的だが、中村監督は最低限のアドバイスだけを伝えた後、選手にすべてをまかせるスタイルを取った。「うちの選手たちはピッチの中で感じたことをコミュニケーション取るので、あとは任せてれば大丈夫だな。準決勝もそうですけど、顔がかなり引き締まってたので、そんなに多く語る必要はないなというのもあった。逆に、流れを変える選手だったり、試合を終わらせる選手たちがどういうモチベーションでピッチに入れるかを考えた時に、やっぱり一緒にボール蹴ったりした方が、自分の感性が研ぎ澄まされる。今日この子やってくれそうだなとか、そういうのをちょっと感じられる大事な時間だなと僕は思うので。あれで(選手が)リラックスできればいいです。色んなものも加味して、ハーフタイムは選手と一緒にボール蹴ってましたね」。
その全幅の信頼に応えるかのように、藤枝順心の選手たちは後半も集中力を保ち、追加点を奪って試合を締めくくった。普段から選手とのコミュニケーションを大切にする、中村監督らしいエピソードである。
選手の自主性を促す指導法は多くあるが、藤枝順心の場合は「選手の自立」がベースになっている。指導者が選手に信頼を置き、選手がそれに応える形でチームが成り立っているのだろう。この背景には、選手に投げかけ続けた指導の積み重ねがあるに違いない。
インターハイ優勝は全国で1チーム、登録された選手20名しか成し得ることが出来ない。しかし、「自立した選手」になることは、誰もが目指すことができる目標だ。結果を残すことも素晴らしいが、その過程で得られる成長にも目を向けてほしい。その成長が卒業後も選手の役にたつ土台となるからである。